わんちゃんの予防獣医療

① お腹の中の寄生虫駆除


 消化管の寄生虫は子犬や子猫にとても多いです。子犬あるいは子猫を飼いはじめた場合、まず最初に行うとよいでしょう。理由は2つあります。一つは犬や猫の寄生虫の多くは人への寄生能力があるということで、特に感染防御能力が未発達のお子様や、感染に対し抵抗力が衰えた高齢者で問題になる場合があります。もう一つの理由として、腸管内表面(上皮)の構造を乱してしまい、栄養の消化吸収に支障を与えたり、生体にとって有害なものの侵入を許してしまうなど、健やかな成長に悪影響を与えかねないということです。

 まずは、現時点で消化管内に寄生虫がいるか便検査をしましょう。便検査により、寄生虫体あるいは寄生虫の卵を確認します。寄生虫がおなかにいる場合はよく効く比較的安全な駆虫薬がありますので、処方いたします。


② しつけと歯磨き


 しつけについては健康管理からは少しずれていると思われるかもしれませんが、あえて書きました。人が動物と暮らすときにはとても大切だからです。しつけがうまくできず、結果としてその動物が周囲の人々に迷惑をかけてしまったり、あるいは飼い主がその動物と暮らすことを諦めてしまったり、虐待と思われかねない事例を起こしてしまったりということがあるからです。当院は、そのようなことが起こらないようできる限り飼い主様の力になりたいと考えております。

 しつけは幼いうちより始めることが大切です。この時期は、ワクチン接種など病院に通う機会があると思いますので、わからないときは何でも聞いてください。

 歯磨きは大切です。これも幼いうちより始めることが大切です。人と同じように歯の健康は体全体の健康管理につながると言われています。具体的にはご来院されたときに説明しますね。

 


③ 犬の混合ワクチン


 混合ワクチンとは、一回の接種でいくつかの種類の感染症に対し予防効果を示させるワクチンです。通常、「犬の混合ワクチン」というと日本でも一般的にみられる感染症に対するワクチンの混合注射を指しますので、日本ではみられない狂犬病のワクチンは含まれません。犬の混合ワクチンの対象になっている感染症の中には発症すると、治療法がないため死に至る怖い病気も含まれています。子犬での混合ワクチン接種は、3回(または2回)の接種が薦められ、1回目の混合ワクチンをおおよそ6~8週齢に接種するのがよいとされます。その後、3~4週間隔で2回追加接種すると十分なワクチン効果発現し、散歩デビューや全身シャンプーも安心して行えます。その後は1年に一回の追加接種するとよいでしょう。また、この子犬の混合ワクチンの1~3回目の時期はしつけを行うとても大切な時期でもあります。こちらからもお話ししますが、ワクチン接種に来られた際には、しつけについてわからないことがあれば聞いてくださいね。


④ ノミ・マダニの予防


 ノミやマダニは、動物の体表に寄生する寄生虫で、その予防・駆除を行うことは消化管の寄生虫同様、動物の健康のためだけでなく一緒に暮らす人の健康にとっても重要です。犬や猫に寄生するノミは人も刺咬し強いかゆみを起こし、また人の猫ひっかき病の病原体を媒介します。マダニは、人の日本紅斑熱や野兎病、ライム病という病気の病原体を媒介します。

 犬や猫にとってもノミやマダニは皮膚に赤みやただれ、痒み、脱毛などの皮膚病や吸血による貧血を起こすだけでなく、寄生虫病や感染症の病原体を媒介し、またこれらの寄生は年齢を問わないので、これらの駆除、予防は消化管の寄生虫に比べ大人の犬猫にとってもとても重要です。

 現在は、首筋に垂らすだけで1か月間近くノミに対してもマダニに対しても十分に予防ができ、一定期間をすぎればシャンプーを行っても効果が持続するお薬がありますので、ご相談ください。

 


⑤ フィラリア予防

 フィラリア症は、犬糸状虫(Dirofilaria immits)という寄生虫が最終的には心臓や肺の血管に寄生することにより、呼吸困難になったり、お腹に水がたまりお腹周りが極端に太くなったり、運動により失神をおこしたりして、最終的に死をもたらす病気です。犬糸状虫は、犬が蚊に刺されることにより子虫(ミクロフィラリア)の寄生を受けます。子虫は、その犬の体内を巡りながら雄虫で体長約17cm、雌虫で体長約28cmのひも状の成虫(寿命5~6年)になり、心臓あるいは肺の血管に寄生した後は、小さな子虫を産み続けます。この病気に対する治療は、駆虫薬あるいは場合により手術によって行われますが、どちらもかなり危険が伴いますので、予防することを強く薦めます。予防には、蚊の吸血を防ぐことも一つですが、体内に侵入した幼虫を駆除することが最も重要です。現在では蚊の飛び交う時期を考えながら、5月ごろより月に一回予防薬を飲ませることによって、十分にかつ安全に予防が可能です。なお、予防薬を安全に使用するためには、シーズン初めに血液検査が必要です。いつも健康な子でも健康診断を受けて隠れている病気を早期発見するいい機会ですので、春には一度来てくださいね。


⑥ 不妊・去勢手術


 犬の不妊手術、去勢手術について、当院としては各飼い主様の考えのもと受けられるかどうかを決定されるべきものと考えます。必ずしなければならない手術とは考えておりません。ただし、猫については、発情の行動、おしっこによるマーキング行動の予防になるため不妊手術、去勢手術はされた方がよいと考えております。

 以下に不妊手術、去勢手術のメリット、デメリットを表に示しました。不妊手術、去勢手術では、それぞれ卵巣(場合により子宮も)、精巣の除去を行いますので、摘出する臓器の病気の予防になり、また卵巣や精巣は性ホルモンを分泌する臓器であるため、性ホルモンが発生に関わる病気(子宮疾患、前立腺疾患、一部の腫瘍)に予防効果があるのです。なお、表に書いてある乳ガン(腫瘍)は、雌犬ではすべての腫瘍の中で最も多い腫瘍です。乳腺腫瘍の約5割の確率で悪性といわれていますので、予防効果を考える意味は大きいと思います。ワクチンや抗生物質が発達した現代では動物も長生きするようになった結果、ガンは死亡原因を大きく占めているのもまた事実なのです。

 

不妊手術のメリット

不妊手術のデメリット
望まない妊娠の予防 術後は妊娠を望めない
子宮の病気予防 麻酔のリスク
卵巣の病気予防 手術のリスク
乳ガン(腫瘍)予防 健康なのに体にメスをいれ、一部の臓器を取り出すこと
去勢手術のメリット 去勢手術のデメリット
望まない妊娠の予防 術後は妊娠させることはできない
精巣の病気の予防 麻酔のリスク
一部の前立腺の病気の予防・治療 手術のリスク
一部のガン(腫瘍)の予防 健康なのに体にメスをいれ、一部の臓器を取り出すこと